検索

児童生徒の学校検診について

新年度、新しい学年に進級し胸を膨らませて学校に通う子供達の健康を守るために、学校検診があり、各市町村の教育委員会の方針により実施学年・検査項目は異なりますが、一般的に 4 月から 6 月の 1 学期間に血液検査、尿検査、寄生虫検査、心電図検査を行います。この学校検診については、小児科専門医や学校保健関係者から、生活習慣病予防と健康教育を取り入れ、児童生徒の将来の健康をも視野に入れた総合健康管理の一環として「学校検診の総合化」が提唱されています。

その背景には、今の児童生徒の生活状況や健康実態に対する懸念があり、肥満や、高脂血症、成人型糖尿病、高血圧など動脈硬化促進の危険因子を持った児童生 徒が予想外に多くその原因として食事の欧米化や乱れ (肉類を中心とした高脂肪・高蛋白に偏った食事、朝食抜き、清涼飲料水の多量摂取など) 運動不足、夜型の生活習慣、慢性ストレス状態など、生活上の問題を抱えた児童生徒が相当数にのぼっているといわれています。そして、このような実態は都会 のみならず全国どの地域にも共通しているとみられ、このままの生活を続ければ、将来早い時期から糖尿病や虚血性心疾患、脳梗塞などの生活習慣病 (いわゆる成人病) を発症すると危惧されています。

私たちは、こうした児童生徒の生活状況と健康実態をふまえて、総合的な学校検診を目指しています。今回は、健康管理の基礎となる一般的な検査の中身についてお話ししてみたいと思います。


尿検査

公社では現在、学童尿検査の全てを蛋白・糖・潜血の 3 項目を実施しています。蛋白と潜血は腎臓疾患や尿路疾患、糖は糖尿病等の病気の早期発見を目的としています。学童期に多い腎臓病には以下のものがあります。

①腎臓病 : 急性糸球体腎炎・急性進行性腎炎症候群・慢性糸球体腎炎・ネフローゼ症候群・先天性遺伝性腎炎
②尿路疾患 : 尿路感染症・尿路結石
③反復性、持続性血尿症候群

これらの腎臓病を少しでも学童期という早期において発見し治療を行うことで、腎不全に至るような疾患を未然に防ぎたいと願っています。


血液検査

生活習慣病のリスクを持つ子供たちの早期発見とその後の指導につながる『小児生活習慣病検診』も行なっております。多角的に検診することにより、子供たちの生涯にわたる健康管理の基礎を築くことができます。

小児生活習慣病検診
1. 検診前準備 2. 検診 3. 総合判定
①検診申し込み
②検診票配布・記入
③調査票の配布・記入
①受診票・調査票回収
②身体測定からの肥満度算出
③血圧測定
④血液検査
☆脂質検査 (TC,HDL,LDL)
☆貧血検査
⑤尿糖検査
検査別に設定された基準値に従い検査別判定し、その組み合わせによって総合判定し、指導区分を決定する。

また、公社では他に単独・セット項目として以下の検査を実施しています。

貧血検査

記号 説明
WBC 白血球数
RBC 赤血球数
Hb ヘモグロビン量
Ht 血液の血球成分の占める割合
MCV 赤血球の平均容積
MCH 個々の赤血球に含まれる平均 Hb 量
MCHC 個々の赤血球の平均 Hb 濃度

脂質検査

記号 名称 説明
TC 総コレステロール (細胞膜の構成やホルモンの材料になるなど生命に重要
TG 中性脂肪 (色々な活動をするためのエネルギー源)
HDL 善玉コレステロール (血管壁の余分なコレステロールを取り除く)
LDL 悪玉コレステロール (多くなりすぎると血管壁に蓄積され動脈硬化の原因となる)


寄生虫検査

寄生虫感染症は、年毎に減少していますが、ぎょう虫の感染は依然として絶滅していません。島根県の感染率は約 0.8% 前後認め、0.4% 前後の全国平均を大きく上回る傾向にあります。ぎょう虫は感染能力もありますので、集団生活をする児童・生徒には早期発見・駆虫が必要であり、年に一度の検査は不可欠です。糞便検査でも件数は少ないですが、横川吸虫も認めています。

横川吸虫
鮎・シラウオなどに肉眼では見えない被嚢幼虫で寄生し、成虫は洋梨型で体長 1 ~ 2mm で小腸粘膜に寄生。
多数が人体に寄生した場合は腹痛、下痢などの症状がありますが少数寄生の場合、自覚症状はほとんどありません。


心電図検査

1995 年、小・中学校および高等学校の各 1 年生を対象に全員心電図検査が義務付けられて、今日の心臓検診体制が確立しました。
しかし、小学 1 年から中学 1 年までの 6 年間の間隔では、軽症の先天性疾患や、成長に伴って発症してくる心筋症や不整脈等が、その間チェックされずに 6 年間放置される恐れがあるなどの問題点が指摘されてきました。
そこで小学 4 年を加えて検査対象とすることにより、3 年間隔での心電図検査を実施することができ、よりよい成績をあげています。新たに発見された心疾患の他に、もともと指摘を受けていた疾患の増悪或いは軽快で管理指導が変更された例もあり、3 年間隔の検査は有意義であると評価されています。
小学 1 年生では、先天性心疾患の発見と既に発見されている心疾患と川崎病既往児が適切に管理されているかのチェックが主目的です。先天性心疾患は、生まれて直ぐに発症する重症例は心雑音がないことが多いですが、それ以外のほとんどは明らかな心雑音を伴いますので、1 ヶ月健診から就学前までの通常の小児科診察で発見されます。ところが、健康小児は心臓の動きが良く、正常で活発に動いている心臓の音を「心雑音」から心疾患と過剰診断する場合が多々見られます。逆に、心房中隔欠損のように心雑音があっても弱い場合は、騒々しい環境では聴き逃がされる可能性があります。
この両方を解決するのが「心電図 + 心音図検査」ですが、心筋疾患のように微妙な心筋の状態を判断するわけではありませんので、時間や費用効率を考えますと心電図は「省略 4 誘導」で充分と考えます。ですから、小学 1 年生では「心電図省略 4 誘導 + 心音図検査」が適切な検査ということになります。
川崎病既往児では冠動脈障害が残っているかどうかが問題です。これには断層エコーが必要ですが、学校検診では問診表で急性期にどこに入院し、どのような検査を受け、その後どのように経過観察を受けているかの確認が大切です。
4 年生以上では、突然死と密接な関係にある心筋疾患 (特発性あるいは続発性心筋症や心筋炎後遺症など) や危険な不整脈の発見が主目的です。多くは雑音がありません。年齢が高くなるにつれて多くなる傾向がみられます。従って、高学年ほど心電図は省略でなくて標準 12 誘導が必要となります。
突然死をきたす疾患には家族性の場合が多々みられますので、問診も大切です。

標準 12 誘導 一般に行われる心電図 (四肢 6 誘導 + 胸部 6 誘導)
省略 4 誘導 12 誘導のうち四肢 2 誘導 + 胸部 2 誘導
心音図 胸部にマイクを置き心音を波形に現します

公社では、1 次検診で精密検査が必要となった児童生徒を対象に、小児科心臓専門医の診察を受けることが出来ます。
精密検査時には、専門医の判断で聴診・心エコー検査・運動負荷心電図検査などが行われます。
残念ながら、少子化の影響により受診数は減少傾向にありますが、学童の健康には大切な検診です。各検査の重要性を考えてみてください。
ここで、今年度「心電図検査」で発見された 4 症例を紹介いたします。


平成 19 年度発見症例

症例 1
学年・性別 小学 1 年生、女子
1 次診察所見 右軸偏位・不完全右脚ブロック (省略 4 誘導検査のみ)
精密検査時所見 自覚症状なし。12 誘導心電図検査では 1 次と同じ右軸偏位・不完全右脚ブロック、聴診で弱い心雑音を聴取。心電図上では発見できなかったが、精密検査でのエコー検査で比較的軽症の心房中隔欠損症と診断された。しかし、放置すれば成人後の予後が不良である事と、本人の負担が少ないカテーテル治療ができる症例と考え、この治療が可能である数少ないカテーテル治療施設である、他県の大学病院小児科を紹介した。

症例 2
学年・性別 小学 4 年生 男子
1 次診察所見 不完全右脚ブロック (12 誘導検査)
精密検査時所見 精密検査時の専門医による問診で疲れやすいことが判明したが、先天性疾患もあるため自分の体質だと思い込んでいた。12 誘導心電図検査では 1 次と同じ典型的不完全右脚ブロックのみで心雑音もまったく聴取されなかった。しかし、心エコーでは約 18mm の大きな心房中隔欠損を認めた。症状があることと欠損が大きいことからカテーテル治療は困難と思われ、病院での精密検査の結果、無輸血欠損閉鎖術が必要と診断。小学 1 年の時にも「心電図省略 4 誘導 + 心音図検査」の検診を受けていたが、その時の心電図には典型的な所見はなく、心音図上も雑音がなかったので異常なしと判定。3 年間の成長と共に心電図が典型的となった事と、12 誘導検査を行ったことによって発見された症例である。3 年毎の検診の有用性を示した症例であった。

症例 3
学年・性別 小学 1 年生 女子
1 次診察所見 不完全右脚ブロック (省略 4 誘導検査のみ)
精密検査時所見 自覚症状なし。12 誘導心電図検査では 1 次と同じ不完全右脚ブロック。聴診で弱い心雑音を聴取。心エコーで心房中隔中央に径 8mmの欠損を認めたが、右房右室の拡張は比較的軽度。症例 1 と同じ比較的軽症の心房中隔欠損症で、カテーテル治療の適応と考えられたため他県の専門病院小児科を紹介。

症例 4
学年・性別 小学 1 年生 男子
1 次診察所見 QT 延長 (省略 4 誘導検査のみ)
精密検査時所見 1 次検診と同じ所見。問診で母親も同じ QT 延長があることが判明。専門病院小児科を紹介し遺伝子解析を含む精査の結果、家族性 QT 延長症候群 (Romano-Ward 症候群 ) と判明。この疾患は突然死を起す可能性が高い事から、突然死予防のための内服治療開始。

※以上、心電図検査につきましては、心電図検査判定・診察医の羽根田紀幸医師にご指導、ご助言をいただきました。

参考資料:中外医学者 : 最新 学校心臓検診
予防医学事業中央会 : 子どもの生活習慣病と健康づくり