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胃透視

皆さんが人間ドックを受診する際に、一番気に掛かることといえば、おそらく胃の検査についてではないかと思います。バリウムの検査では、ちゃんと飲めるだろうか、後で便秘になったりしないだろうか、胃カメラでは、また苦しくてゲーゲーするんじゃないかなどなどでしょう。今回の話を聞けば、そんな心配はいっぺんに解消 … とはいきませんが、検査を受ける意味を分かっていただいたり、検査での多少のこつをお教えすることにより、検査に対する不安を少しでも小さくすることができればと思います。

胃の検査として代表的な 2 つの検査のうち、今回はバリウム検査について述べさせてもらいます。バリウム検査は正式には上部消化管 X 線検査、あるいは胃透視検査といいます。造影剤として使用する硫酸バリウムが有名になったため胃透視といえばバリウムの検査という名前が浸透したものと思われます。この文の中では今後胃透視という言葉を使用させてもらいます。

胃透視は、簡単にいえば、硫酸バリウムという造影剤と空気という造影剤の 2 つの造影剤を使用して食道、胃、十二指腸の形を撮影する検査ということができます。空気が造影剤と聞いて変に思われる方もいらっしゃると思いますが、バリウムにはレントゲンを通過させないという特徴があり、空気は逆にレントゲンの通過を邪魔しないという特徴があります。この相反する性質を利用して撮影するのが胃透視というわけです。

専門用語となって恐縮ですが、胃透視では二重造影法という撮影法が非常に重要なウエイトを占めていますが、この「二重」という言葉は「バリウム」と「空気」という 2 つの造影剤から来ている言葉なのです。さらに言えば、この二重造影法という撮影法は、日本が世界に先駆けて確立したものであり、この方法の出現によって、消化管の X 線診断学は飛躍的に発展しました。現在でも消化管の形態診断の分野は、日本が世界をリードしています。

現在、胃透視が一般的に数多く行われている場というと、集団検診と人間ドックではないかと思います。両者とも目的は胃がんの早期発見ということになりますが、その撮影の仕方は若干異なります。集団検診では、胃 X 線撮影装置を装備した車が、検診会場へ出向いていってその車の中で撮影を行います。これを間接撮影といいます。また、人間ドックで行われる胃透視は、施設内の X 線検査台で行います。これを直接撮影といいます。両者とも、バリウムを使って胃の形を X 線で撮影するという手技は全く一緒ですが、できあがった X 線フィルムが間接撮影では 100mm のフィルムに現像されるため、実際の 7 分の 1 の大きさに縮小された写真となるのに対し、直接撮影では、ほぼ同じ大きさの胃がフィルム上に現像されてきます。他にも原理上は色々な違いはありますが、2 つの方法の最大の違いはこの点にあります。従って直接撮影の方がより詳細な情報を得ることが可能というわけです。

よく、「いつもバリウムを飲んで検査しても必ず二次検査で胃カメラをしなさいといわれる。二度手間になるのはいやだからはじめから胃カメラをしてほしい。」という話を聞きます。果たして実状はそうなのでしょうか。胃の集団検診は、島根県全県下で年間約 6 万人の人が受診されていますが、そのうち要精検すなわち二次検査が必要とされた人はおよそ 10 ~ 12% という結果が出ています。従って、88 ~ 90% の人は異常なしと診断されているということになります。また、当施設でも胃透視を受けた方の約 15% の人が要精査という判定になっています。これらの数字を多いとみるか、少ないとみるかは意見の分かれるところですが、実際には 8 割~ 9 割の人は胃透視だけで検査が終了するということは理解していただけるのではないかと思います。

ただ、人の顔かたちが千差万別であるように、胃の形というのも人それぞれです。その人の体型、おなかの中での胃の位置などによってどうしても素直な胃の形が撮影できない人も少なからずいることも事実です (特に、中高年の男性でやや肥満型の人に多い傾向があります)。また過去に胃潰瘍などの胃の病気を患ったことのある方は、多くの場合、胃に変形を残していることがあり、こういった場合もやはり要精検と判定されることが多いと思われます。でも、これを読んで「ああ、やっぱり。自分は X 線向きでない胃だからひっかかったんだ。」と思い込んで二次検査を受けないのだけは避けてください。やはり、しっかりと二次検査を受けて自分の胃の状態を把握することは、今後の食生活を含めた自分のライフスタイルを検討する上でも重要な資料となるはずです。

現代の医療現場の流れをみますと、胃透視と胃内視鏡検査を比較した場合圧倒的なスピードで内視鏡検査が普及しており、胃透視は臨床の現場では精密検査法などの特殊な場合を除いてはあまり行われなくなってきているのが現実です。しかし、胃透視には胃全体の形を把握できるという利点もありますし、質のよい X 線撮影は下手な内視鏡検査より、情報量が多い場合も少なからずあります。また、バリウムや X 線撮影装置もより情報量の多い写真が撮れるように改良されてきています。今後も胃透視は内視鏡検査とともに互いの欠点を補いつつ、行われていくものと思われます。

最後に、胃透視検査を上手に受ける「こつ」をお教えしましょう。まず、バリウムの臭いが鼻についてなかなか飲めない人は、飲むときに鼻をつまんで飲むとむせたり吐き気が来たりすることが少ないと思いますので一回試してみてください。また検査中は、できるだけ力を抜いてリラックスすること。特に撮影の時に「息を止めて」と言われておなかにグッと力を入れて止める人がいますが、かえってぶれた写真になったり、胃の自然な形が撮れなかったりして逆効果になることがあります。息を止めるときは、吸って止める時も吐いて止める場合も力まないで、自然に止めることが重要です。

最後に一番気になる便秘のことですが、バリウムを飲んだ後はできるだけ水分を多く取ることが肝心です。胃腸というのは全身の水がめ的な役割を果たしている場所ですから、体が水分を補給していないと、バリウムを溶かした水も吸収されてしまってバリウムがだんだん固まってくることになってしまいます。ですから、胃透視を受けた後バリウム便がしっかり出るまでは、喉が乾いていなくても水分をしっかり取ることが大事になってくるのです。胃透視は、検査する側と検査を受ける側が互いに協力しあえばより精度の高いものとなります。今後検査を受ける機会がありましたら、今述べた「こつ」を思い出してください。