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腹部超音波検査

腹部超音波検査 (以下腹部エコーと略します) は、どの施設の人間ドックでも必ず組み込まれている検査項目ですが、一体どういう臓器をを見ていてどんな病気が分かるのか、ということに関してはほとんどの人が知らないといっても過言ではないと思われます。そこで人間ドックの中で行われる腹部エコーについて説明したいと思います。

エコーは、ここ 20 年くらいの間にいろいろな分野の診療や治療において臨床応用され、現代の医療では欠くことのできない検査機器として定着しています。内科、外科、産婦人科、泌尿器科などをはじめとして、最近は眼科、整形外科、脳神経外科などもエコーによる診療を応用し、これまでなかなか診断のつかなかった病気の診断に役立てています。超音波検査がこれほどまでに広く普及した原因は、大きく分けて 3 つあげられると思います。その第一は、非浸襲的すなわち人体にほとんど悪影響を及ぼさないことです。X 線には放射線の被曝、内視鏡検査も偶発症などの危険性が多少なりとも見られるわけですが、エコーに関してはそのような心配は全くと言っていいほど見られません。従って、検査する側もされる側も安心して検査に望めると言うわけです。二番目にあげられるのは検査の簡便性です。検査機さえあれば外来診療の合間にも 15 分から 30 分程度の時間ででかなりの情報量が得られ、またほとんど特別な前処置が要らないというのは他の画像診断にないメリットと言うことができるでしょう。また、検査を受ける側の苦痛が全くと言っていいほどないことも大きな利点ということができます。第三には、超音波の原理を応用した様々な機能検査、治療がエコーの普及と同時に進行してきたことがあげられると思います。心エコーでは各種心機能検査ならびにカラードップラーによる血流測定や弁膜疾患の診断に利用されており、肝臓の腫瘍に対してはエコーで病巣を確認しながらエタノール局注を行って治療を行うなど、先進的な診断と治療の分野でも積極的に応用されています。現代の技術革新のスピードから考えると今後も新たな画像診断技術が開発されることは十分予想できますが、今述べた 3 つの利点、特に非浸襲的であるという点だけでもエコーは医療現場で今後とも重要な役割を果たすのは間違いのないことと思います。

それほど便利でなんでも分かりそうなエコーにも弱点はあります。超音波というのは、実は魚群探知機に使用されているものと基本的には同じものなのです。魚群探知機は海面から海底に向かって超音波を発信し、その方向から帰ってきた信号を元に画像を作り出して魚の群の位置を知ることができる機械であり、超音波が水の中をほとんど弱まることなくまっすぐ進むことができるという性質をうまく応用した例なのです。しかし空気に対しては一歩も進めないという弱点があり、このため肺などに対してはなかなか応用できません。また、脂肪は超音波を跳ね返す力が強いために肥満型の人はエコーを当てても良い画像が得られないことがあります。(多分、小錦関などに腹部エコーを行ってもほとんど情報が得られないのではないかと思います。)

ところで、人間ドックで行っている腹部エコーは一体何を見、どういう病気を診断しているのでしょうか。先に述べましたように超音波は水の中はスムーズに進み、空気では一歩も進めないという性質があります。従って、胃腸や肺などの空気を含む臓器の診断にはあまり効果がありません。主として、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓などの「中身の詰まった臓器」と、胆のう、大動脈などの「中に水のようなものを容れた臓器」が対象臓器になります。ただし、胃腸や肺に対しても全く無力というわけではなく、腸閉塞や虫垂炎の診断にエコーが威力を発揮する場合もありますし、大きな胃癌や大腸癌の発見のきっかけがエコーであったという例も少なからず存在します。しかし、いわゆる検診としてのエコーではこういったケースはまれですので、やはり上に述べた臓器を対象に観察することになります。

では、これらの臓器 (肝臓、胆のう、脾臓、膵臓、腎臓、大動脈など) を観察した結果どういった病気が分かるのでしょうか。表は、超音波集検の結果を元に発見される疾患の内訳を示したものですが、実に様々な疾患の診断が可能であることがおわかりいただけると思います。中でも、脂肪肝、胆のうポリープ、肝のう胞などが多く発見されています。ただしこれらの疾患は多くの場合治療の必要のないものであり、おおむね経過観察で十分です。ただし脂肪肝はアルコール性肝障害、肥満、高脂血症などと密接な関係にあるため、動脈硬化などの成人病の危険群をチェックする意味で重要な所見と考えられています。また、胆石、腎結石などの診断も可能です。これらも発見されれば直ちに治療が必要かというとそうではありません。無症候性胆石あるいは無症候性腎結石といって一生症状をおこさずに終わるものも相当数あるからです。そして、腹部超音波検査で発見される悪性腫瘍すなわち「がん」には、肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、腎臓がんなどがあります。これらのがんは、エコーだけですぐに確定診断がつくというものではなく、まずエコーによって異常を指摘され、精密検査 (CT,MRI, 血管造影など) を行った結果診断されるものですが、超音波が臨床応用される前は発見時にはかなり進行した状態であることが多く、予後不良のがんとされてきました。しかし、エコーの普及に伴って、かなり早期のがんが発見されるようになり次第に治療成績が向上しつつあります。特に超音波集検で発見されたこれらのがんは、臨床で発見されるがんよりも早期のものの割合が多いというデータが各施設から報告されつつあります。ただし老人保健法の対象となっている胃がん、大腸がん、子宮がんなどに比べると長期予後が悪く、またそれぞれのがんそのものの頻度も低いため、いわゆる「検診になじむがん」(検診をすることによってその死亡率を減少させることが期待できるがん) とはいえないのが現状です。従って、一部の県を除いては検診車にエコーを積んで巡回検診を行うといった状況は、すぐには訪れないのではないかと考えられます。それでも、冒頭に述べたようにエコーの利点 (非浸襲性、簡便性など) から考えると、とりわけ人間ドックのような施設検診では今後も画像診断の一つの大きな柱となり続けることは間違いのないところだと思います。

皆さんも、人間ドックでエコーを受けられることがあると思いますが、要精検と指摘された場合は恐れることなく直ちに精密検査を受けることをお勧めします。