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体力測定・運動機能検査

はじめに

近年の日本の疾病構造の変化で特徴的なことの一つに、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病 (成人病から名称が生活習慣病に変更されました) の増加が挙げられます。検診や人間ドックは、がん検診という側面が強調されますが、これらの生活習慣病の早期発見ということも非常に重要な要素となっています。実際に検診を行いますとこれらの生活習慣病を持っていたり、その予備群である人が実に多いのが現状であり、その数は今後増加の一途をたどることはほぼ確実と考えられています。

生活習慣病という名前から分かるように、これらの疾患は日常生活にその原因の一部がある場合が多く、生活習慣の改善によって大部分が治療可能であるといわれています。中でも重要なのが食生活と運動です。満ち足りた食生活と車社会の発達による運動不足によって生活習慣病が増えてくるというのは当然といえば当然の結果なのですが、だからといってなにも対策を講じないと、心臓病や脳血管障害などを合併して寝たきりとなる人が増える結果につながることも予想されるのです。

では、どのような運動を行えばこれらの生活習慣病を予防したり、改善したりすることができるのでしょうか。運動能力あるいは体力というものは個人差がありますので全員が一律に同じ運動を行えばよいというものではありません。個人個人の体力が違うわけですから、それぞれの運動の内容も異なります。この個人個人の体力を測定して、無理のない適切な運動メニューを作ることが体力測定・運動機能検査の目的です。従って、競技選手の体力向上とは根本的に異なり、体力が人より劣るからといって悲観することもありませんし、人に優っているからといって自慢するものでもありません。あくまで自分の現在の体力を把握して、生活習慣病にうち勝つためのものであるということを理解してください。

以下、具体的な内容について説明します。

体力測定項目
体力といっても様々なものがありますが、基本的には、

・筋力
・心肺持久力
・平衡性
・柔軟性
・敏捷性
・筋持久力

の 6 項目を評価しています。


1. 筋力 (握力)

特性
握力計を握ったことがない人はまずいないと思います。握力は上肢の筋力を代表するもので古くから測定されています。日常生活の中でも、箸を持つ、ハンドルを握る、ペンで字を書く、何かにつかまって立つ、歯を磨く、ドアを開けるなどと腕や手を使う場面は数多くあります。この筋力がどのくらいのレベルにあるかを把握することは必要です。無理をして自分のレベル以上のことをすればけがにもつながってきますので、現段階での筋力に応じた仕事をするように心掛けてください。

測定方法
握力計の握り方は、人差し指の第 2 関節がほぼ直角になるように握りの幅を調節します。右左の順番に 2 回ずつ測定しますが、腕を振り回したり、体幹部に腕が触れることがないように握ります。


2. 心肺持久力 (最大酸素摂取量)

特性
最大酸素摂取量 (体重 1kg あたり 1 分間でどれだけの酸素を取り入れることができるかの指標です) を測定します。さらに運動中の心電図や血圧、心拍数などの変化もチェックして全身持久力や心肺機能をみるものです。
またこの検査は心電図をモニターしていますので、安静時心電図ではみられなかった不整脈などのが発見されることもあります。また、運動負荷による血圧や心拍数の変化も観察することができます。
心肺持久力の低い方は、心臓病にかかりやすいといわれています。最大酸素摂取量に基づいた適切な運動を続けることで、心肺持久力を高め、心臓病にかかりにくい体を作ることもこの検査の大きな目的となっています。

測定方法
自転車エルゴメーターを漕ぐことによって負荷をかけ、心電図、血圧、心拍数をモニターしながら行います。負荷の種類は様々ですが、おおむね 4 分ごとにペダルが重くなって負荷が強くなります。そして年齢ごとに設定された最大心拍数 (40 歳の人で 180/ 分) の % に心拍数が達するまでペダルを漕いでもらうことになります。


3. 平衡性 (閉眼片足立ち)

特性
目を閉じて片足でたった状態でどれだけ長くいられるかを測定します。これは視覚に頼らない状態でのバランスを保つ能力をみることにより平衡性を評価する検査です。平衡性をつかさどるのは主として耳の奥にある三半規管ですが、この機能は加齢による変化が大きいといわれています。ただし、全体重を片足で支えるために足の筋力もある程度は必要となります。

測定方法
両手を腰に当ててバランスのとりやすい方の足 (一般的には利き足) で立ちます。スタートの合図で目を閉じ、少しでも長くその状態を保ちます。
バランスが崩れるまでの時間により評価します。
バランスが崩れたとみなされる場合は以下の 4 つのいずれかが発生したときになります。

・立っている方の足 (支持足) の位置がずれたとき
・腰に当てた両手または片手が離れたとき
・上げている方の足が床または支持足に触れたとき
・閉じた目が開いたとき


4. 柔軟性 (立位体前屈)

特性
腰から背中、大腿部の筋肉の柔軟性をみる測定項目です。
柔軟性というと苦手だなあと思われる方が多いと思いますが、筋肉の柔らかさは日常生活や運動に関わる重要な要素であり、体の老化につながるものです。また、腰痛や姿勢が悪くなるのもこの柔軟性の低下が原因の一つといわれています。

測定方法
両足をそろえてかかとをつけ、足先を約 5cm 程度開いて台の上に立ちます。次に両手をそろえて指先を伸ばします。ものさしに触れながらゆっくりと息を吐きつつ体を前に曲げていきます。反動をつけたり、膝を曲げたりしてはいけません。そして最低 2 秒間止めていられる最低点が測定値となります。
床面が 0 レベルとなりますのでそれよりも下であればプラス、上であればマイナスということになります。


5. 敏捷性 (全身反応時間)

特性
信号に対する反応をみることにより、敏捷性を評価します。赤い光が光ってから体が飛び上がるまでの時間を測定します。
目から入った信号が脳へ伝わり、そこから全身の筋肉へ “ 飛べ ” という命令が出て跳躍という行動に移ります。反応時間が短いほど敏捷性が高いということになります。スポーツも含めて日常の行動での敏捷性 (すばやさ) と深い関わりを持つとされています。

測定方法
ひざを軽く曲げた状態で圧力板の上に立ちます。目の前の赤い光が光ったらできるだけ早く両足で飛び上がります。
測定は 5 回行います。5 回の平均値を測定値として評価します。


6. 筋持久力 (上体おこし)

特性
腹筋の持久力を測定します。自分の体重を負荷としていますので、脂肪太りの人の場合は一般的に値が低い傾向にあります。また、腹筋が弱いと背筋とのバランスの崩れから腰痛の原因の一つともいわれています。

測定方法
一般的な腹筋とほぼ同じ方法です。床に仰向けに寝た状態で両足を肩幅くらいに開いて膝を 90 ° に曲げ、頭の後ろで手を組みます。両肘が両膝に触れるところまで上体を起こし、再び背中が床に付くまで倒して元の姿勢に戻ります。この運動をできるだけ早く、正確に 30 秒間繰り返し、その回数で評価します。


十分なウォーミングアップを
これらの体力測定によって自分の体力のレベルが分かります。そのレベルに応じた量や強さの運動を行うことにより、先に述べた生活習慣病にかかりにくい体づくりや生活習慣病からの脱却などの効果が得られるわけです。必要以上にがんばりすぎて自分の能力以上の運動をすることはありません。

また、どのような運動でも最初にしっかりとウォーミングアップを行って徐々に運動する体制にととのえてから始めることがけがを予防する上でも非常に大切なことです。運動を終了するときも運動している状態から徐々にクールダウンすることも忘れないようにしてください。

体調は毎日変化していますので、それに応じて行動することも重要です。体調の悪いときには決して無理をせず、気長に運動を続けましょう。