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乳がん検診について

最近、メディアに乳がん検診あるいはマンモグラフィ検診という言葉がよく登場します。
日本では現在約 4 万人の方が乳がんにかかると推定されており、女性がかかるがんの第一位です。そして今後この数は増加の一途をたどるであろうと予測されています。
その一方で不幸にも乳がんで亡くなる方は、年間 1 万人と推定されており、壮年期 (30 ~ 64 歳) の女性のがんの死因の第一位です。確かに多くの方が不幸にも乳がんでなくなっている現実がこの数字から読み取れますが、逆の見方をすると、乳がんにかかった人でがんそのもののため亡くなる人は全体の 4 人に 1 人であり、残りの 3 人は治療により、乳がんを克服したかあるいは克服しつつあるということになります。すなわち乳がんは様々な癌の中でも比較的性質のよい、治りやすいがんであるということができます。
では、乳がんのために亡くなった方とがんを克服された方の違いは何なのでしょうか ? その違いについては大きく分けて 2 つあるものと思われます。第一番目は、がんで亡くなった方が性質の悪いがんにかかってしまったために、治療の効果が期待したほどなく、癌が進行してしまった場合です。先ほど乳がんは性質のよいがんと述べたばかりですが、乳がんの中にもさまざまな種類のがんがあり、中には早期に全身へ転移して救命が難しいがんもあります。ただし、こういった性質の悪いがんについても、治療法の進歩により年々治療成績は上がってきています。第二番目はがんの発見が遅れてしまい、既にがんが進行した状態で発見されいわゆる「手遅れ」で見つかる場合です。この場合、より早期にがんを発見できれば、がんで死ななくてもすんだ可能性が高いのですが、残念ながら治る時期に発見できなかったということになります。したがって、乳がんを早期に発見できれば、年間 1 万人という乳がんの死亡者数を低下させることは十分可能です。この早期発見のために乳がん検診が果たす役割は今後非常に大きなものとなると思われます。


マンモグラフィ検診について

乳がん検診は、以前日本では医師による視触診という方法で行われてきました。しかし、この方法では早期の乳がんを発見することがなかなか難しく、検診によってそのがんの死亡率を下げるというがん検診の目標を達成することは困難でした。そこで登場したのがマンモグラフィ検診です。
厚生労働省は 2004 年日本における乳がん検診をそれまでの視触診中心の方法からマンモグラフィを中心にした検診方法を推奨するという提言を出しました。これにより、日本における乳がん検診視触診からマンモグラフィへと大きく舵を切ることになりました。
では、なぜマンモグラフィ検診が乳がん検診の中心と位置付けられたのでしょうか ? マンモグラフィとは乳腺を X 線で撮影し、診断する装置のことで、病院などでは以前から乳がんの診断には必ず必要な検査方法であり、発見された乳がんの診断のために利用されてきました。アメリカやイギリスでは、1990 年代にこのマンモグラフィを検診に応用し、広く行われてきました。その結果、乳がんの発生率は年々上昇してきているにもかかわらず乳がん死亡率は逆に減少しつつあることを全世界に向けて報告しました。以来、マンモグラフィによる検診は乳がん死亡率を減らすことが科学的に確認されたとみなされ、多くの先進国でマンモグラフィによる乳がん検診が実施されているようになりました。
日本でもマンモグラフィ検診が行われるようになって数年が経過しました。では、乳がんの死亡率は減ってきているのでしょうか。答えは NO です。がん検診が死亡率の低下という効果をもたらすために重要なことがいくつかありますが、その中でも、受診率が高いということが最も重要な要素なのですが、最新の厚生労働省のデータでも乳がん検診の受診した人は約 227 万人であり、対象とされる人の 17.6% という数字が出ています。この中には以前からの視触診だけの検診も含まれていますので、マンモグラフィ検診を受けた受診者数はさらに少ないものと思われます。一方で、マンモグラフィによる乳がん検診が有効性ありとされたアメリカやイギリスでは、対象者の実に 70% 以上の方が 2 ~ 3 年に一回のマンモグラフィ検診を受けています。いかに良い方法の検診であっても、受診者が少なければその恩恵を受けることができる人はごく一部に限られてしまい、多くの乳がん患者は依然として、自分で乳房のしこりに気がついて病院を受診し、一部の方は「手遅れ」と診断され、4 人に 1 人は乳がんのために亡くなるという現状が繰り返されることになります。今後マンモグラフィ検診を受診する女性が増え、より多くの早期乳がんを発見することができれば日本の乳がん死亡率も減少することが期待できると思われます。


マンモグラフィ検診の実際

では、マンモグラフィ検診はどのように行われているのでしょうか ? 島根県においても多くの市町村がマンモグラフィ検診を実施しています。個々の市町村で若干違いはあるものの、おおむね以下のような方法で実施されていることが多いようです。

対 象 :40 歳以上
方 法 : マンモグラフィ + 視触診 (一部ではマンモグラフィのみ)
検診間隔 :2 年に一回

対象が 40 歳以上とされているのは、厚生労働省の指針に基づいて行われているからですが、これには、2 つの理由があります。ひとつは日本での乳がんの罹患率が 40 才台で急上昇し、40 才台後半でピークに達すること。もうひとつは、30 才台までの女性では乳腺が発達しているために、マンモグラフィを行っても乳がんを早期発見することが難しい場合が多いためです。マンモグラフィでは乳腺は白い綿あるいは雲のように見えます。また一方で、乳がんも X 線上白く見えます。そのため発達した乳腺 (X 線の用語では高濃度乳腺といいます) で乳がんを見つけるのは「雪の中で白いウサギを見つける」作業に等しいことになります。従って、30 才台までの女性ではマンモグラフィを中心にした検診を行っても有効性に疑問符がつくため、多くの自治体では実施されていません。
実際の申し込み方法などについては、各自治体に直接問い合わせるか、ホームページを参照してみてください。
では、マンモグラフィ検診の対象ではない 30 才台までの女性は乳がんを早期に発見することはできないのでしょうか。比較的有効ではないかと考えられている手段として 2 つの方法が提案されています。ひとつは乳房の自己検診をという方法です。これは、自分で乳房の形の異常、あるいはしこりを触れるかどうかをおよそ月に一回のペースで自らの目と手で確認するという方法です。具体的には生理が終わった 2 ~ 3 日あとで入浴時などを利用して行う方法です。もうひとつの方法は超音波 (エコー) による乳がん検診です。この検診方法は、まだ確実に有効性が証明されたわけではないため、現在厚生労働省の研究班を中心に検討中という段階です。ただし、マンモグラフィでは発見しにくい発達した乳腺であっても、しこり (腫瘤) を見つけることが可能であるため、人間ドックなどの個別の乳がん検診としては多く行われるようになってきています。
ここでもうひとつ強調しておきたいことは、マンモグラフィさえ受けていれば、100% がんが発見されるとは限らないということです。マンモグラフィに限らずすべてのがん検診は対象となるがんをひとつも見逃すことなく発見することは不可能です。ですから、マンモグラフィ検診で異常なしと判定されていても、ご自身が気になる症状 (しこりを触れるなど) があれば、医療機関 (乳腺外科など) を受診してください。また、2 年に一回の検診間隔ですから、その間は先に述べた自己検診を実施することをお勧めします。


おわりに

これまで述べてきたように、乳がん検診は日本の乳がん死亡率を減らすことを目的としています。従って、今後受診者数を増やし、早期の乳がんを少しでも多く発見することが重要です。今回の特集で皆さんが少しでも乳がんおよび乳がん検診に関心を持っていただければ幸いです。
私ども島根県環境保健公社ではマンモグラフィ検診車 (なでしこ号)、松江市の総合健診センターなどで、マンモグラフィ装置を活用し、できるだけ多くの方にマンモグラフィ検診を受診していただきたいと考えております。