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生活習慣病の新しい基準について

最近、生活習慣病という言葉をよく耳にする機会があります。これは以前、成人病と呼ばれていたものに相当します。成人病と聞くと、「成人病 = 大人がかかる病気」という概念が定着してしまい、子供はこれらの病気にはかからないから安心であるといった誤った考え方に陥りやすいのですが、実は、小学生、中学生、高校生などにもこれらの成人病が存在する事が明らかなってきています。従って、老若男女を問わず、生活習慣 (食生活、運動、睡眠、酒、煙草など) がその原因であったり、増悪する因子であったりする病気を「生活習慣病」と定義して、注意をうながしているというわけです。

生活習慣病には、様々な病気が含まれますが、その中でも代表的なものに

1. 肥満 2. 糖尿病 3. 高脂血症 4. 高血圧

などが挙げられます。

これらの生活習慣病は、それだけではよほど重症にならないかぎり自覚症状に乏しいため、放置されているケースが多いのですが、いずれも心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化にともなう重大な合併症を引き起こす危険因子と考えられています。また、これらすべてをあわせもつ患者を multiple risk factor syndrome (多発危険因子症候群) とか " 死の四重奏 " とよび、心筋梗塞などの危険性が最も高い患者群として日常の臨床でも大きな問題となっています。
ところで、ここ数年の間にこれら生活習慣病診断基準の改定が相次ぎました。今後、検診結果を見る上で新しい診断基準を参考にすることが必要と思われます。今回から二回に分けて、これらの新しい診断基準を紹介し、皆さんの健康に対する考え方を再認識してほしいと思います。第一回は、肥満と糖尿病です。


肥満

肥満の計算のしかたは、以前から標準体重を (身長 - 100) × 0.9 で算出して、現在の体重が標準体重より、どれだけ多いか少ないかを判定する計算法 (Broca 指数) が用いられてきましたが、現在では BMI(body mass index) 指数が広く用いられています。

BMI = 体重 (kg) / { 身長 (m)}2

という計算式でもとめられます。この BMI 指数をもとに、やせ、正常、肥満の定義が日本肥満学会において新しい判定基準 (案) として 1999 年 10 月に発表されました。以前は BMI 指数が 26.4 以上の人をもって肥満と定義していましたが、今回は、以下のように肥満を 4 段階に分けて分類し、また、肥満 (1 度) も BMI 指数が 25.0 以上という基準に引き下げられました。
これは、日本人の肥満では、比較的軽度の人でも高血圧、高脂血症、糖尿病などの合併が多く、より早い時期での肥満の是正が必要であるという考えによるものと思われます。

  判定
BMI(Kg/ m2)
身長 160cm の人の場合
やせ
18.5 未満
47.4Kg 未満
正常範囲内 18.5 ~ 24.9 47.4 ~ 64.0Kg
肥満 (1 度) 25.0 ~ 29.9 64.0 ~ 76.8Kg
肥満 (2 度) 30.0 ~ 34.9 76.8 ~ 89.6Kg
肥満 (3 度) 35.0 ~ 39.9 89.6 ~ 102.4Kg
肥満 (4 度) 40.0 以上 102.4Kg 以上

なお、標準体重は、BMI 指数が 22 であることで定義されます。従って標準体重を求める式は、

標準体重 = 22 X { 身長 (m) } 2

となります。

例えば身長が 170cm の人の場合、

標準体重 = 22 X 1.7 X 1.7 = 63.58kg

ということになります。

平成 9 年度の国民栄養調査によれば、20 歳代の人の 4 人に 1 人、また 30 歳代の 3 人に 1 人は肥満であるという報告もあります。「肥満は万病のもと」です。食生活の適正化、日常の軽い運動などを行いながら肥満防止につとめてください。


糖尿病

糖尿病は、21 世紀の日本における国民病といわれるように、近年患者数が増加しており、その予備群を含めると 1200 ~ 1300 万人が罹患しているといわれています。糖尿病の診断は以前から血糖値の結果を元になされており、主として、空腹時血糖値と糖負荷検査 (75gOGTT) によって診断されていました。

(旧) 糖尿病の診断基準 (1982 年日本糖尿病学会)
< 糖尿病 >
空腹時血糖値が、140mg/dl 以上、または、75gOGTT2 時間値が 200mg/dl 以上、または随時血糖値が 200mg/dl 以上のもの

< 境界型 >
糖尿病型、正常型のいずれにも属さないもの
(空腹時血糖値が、110 ~ 139mg/dl 、または、75gOGTT1 時間値が 160mg/dl 以上、または 2 時間値が 120 ~ 199mg/dl のいずれかを満たすもの)

< 正常型 >
空腹時血糖値が、110mg/dl 未満、かつ、75gOGTT1 時間値が 160mg/dl 未満、および 2 時間値が 120mg/dl 未満のもの


(新) 糖尿病の診断基準 (1999 年日本糖尿病学会)
< 糖尿病 >
1. 空腹時血糖値が、126mg/dl 以上、または、75gOGTT2 時間値が 200mg/dl 以上、または随時血糖値が 200mg/dl 以上のいずれかを 2 回以上確認したもの
2. 空腹時血糖値が、126mg/dl 以上、または、75gOGTT2 時間値が 200mg/dl 以上、または随時血糖値が 200mg/dl 以上のいずれかを 1 回確認し、なおかつ糖尿病症状 (口渇、多尿、体重減少など)、糖尿病性網膜症、HbA1c が 6.5% 以上のいずれかを満たすもの

< 境界型 >
空腹時血糖値が、110 ~ 125mg/dl 、または、75gOGTT2 時間値が 140 ~ 199mg/dl のもの

< 正常型 >
空腹時血糖値が、110mg/dl 未満、かつ、75gOGTT2 時間値が 140mg/dl 未満のもの

以上からみますと、今回の改正のポイントは

1. 空腹時血糖値が 140mg/dl 以上を糖尿病型としていた基準を 126mg/dl に引き下げた点
2. 75gOGTT2 時間値では 120mg/dl 未満を正常型としていたのを 140mg/dl まで引き上げた点
3. 75gOGTT1 時間値を診断基準から削除した点
4. 診断基準の中に HbA1c(約 1 ヶ月間の血糖値の推移が分かる検査で正常値は 4.3 ~ 5.8%) を取り入れた点

の 4 つが挙げられるのではないかと思います。皆さんも検診の結果をもう一度再確認してください。新しい診断基準で糖尿病型に入っている場合は、できるだけ速やかに医療機関を受診して再確認をしてもらってください。

また、境界型に該当する方は、ご自身の食生活や運動の習慣、現在の体重をチェックする事をお勧めします。その上で問題点があれば、修正することにより糖尿病を予防するようにしましょう。