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糖尿病について

はじめに

最近の厚生省の研究調査の結果、日本の糖尿病患者が約 660 万人、糖尿病予備群を含めると 1300 万人以上となり国民の 10 人に 1 人は糖尿病またはその予備群であるという報道がありました。まさに、現代の日本においては糖尿病が国民病の一つであり、今後も増加することは確実視されています。
今回は、みなさんが受診された検診や人間ドックの報告書の中にある様々な検査値の中で糖尿病に関係したものの意味とその見方について説明したいと思います。


糖尿病について

そもそも糖尿病が、一体どういう病気で何が怖いのかということについては案外知らない方が多いと思います。病名のとおりに「尿に糖が出る病気」と考えている方も多いと思いますが、正確には「血糖値が高くなってしまい、なかなか下がらない病気」なのです。同じ様なものじゃないかと思われる方もいらっしゃると思いますが、血糖値は高くないのに尿に糖が出てしまう場合があります。これを「腎性糖尿」というのですが、この腎性糖尿は糖尿病とは異なり、食事制限などの特別な治療は必要ない別の状態です。
糖尿病は、初期にはほとんど症状がないため、検診や人間ドックで指摘されて初めて分かるという場合が多いのですが、場合によっては古典的な糖尿病の症状 (口渇、多尿、体重減少) によって発見されることもあります。これらの症状は、高血糖による自覚症状ですから、血糖値がある程度下がれば良くなるのですが、糖尿病が怖いのは、高血糖を長期間放置することによって合併症が出てくることなのです。この合併症こそが、糖尿病の最大の問題であり、合併症を発症させない、または進行させないことが糖尿病の治療の目標であるといっても過言ではありません。
糖尿病合併症の代表的なものに糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害があり、これらを三大合併症といいます。合併症の詳しいメカニズムなどについては今回は省略させていただきますが、現在日本人の失明の原因のトップは糖尿病性網膜症であり、人工透析を必要としている人の第二位の原因が糖尿病性腎症であるという事実があります。これでも糖尿病の合併症の重大性がおわかり頂けるのではないかと思います。

次に、みなさんが目にする糖尿病に関する検査について、検査の意味と検査値の見方を説明したいと思います。


糖尿病に関する検査

1. 空腹時血糖値
血液中のブドウ糖の量を血糖値といいます。通常空腹時の血糖値は 70 ~ 110 mg/dl の範囲内にあり、食事をすると 30 分~ 1 時間後には、およそ 120 ~ 140 mg/dl に上昇し、2 ~ 3 時間後にはほぼ空腹時のレベルまで下がります。
空腹時血糖値が 140 mg/dl 以上の場合はそれだけで糖尿病と診断されますので、これらの人は、直ちに医療機関を受診し、糖尿病としての治療を開始する必要があるということになります。また WHO(世界保健機構) では、糖尿病の診断基準の改定が検討されており、その改定案では空腹時血糖値で糖尿病を診断できる値を現在の 140 mg/dl 以上というものから 126 mg/dl 以上へと引き下げられています。近い将来日本でもこの診断基準が採用されることが予想されますので、現在、空腹時血糖値が 130 mg/dl ということでまだ糖尿病ではないと安心している人もほぼ糖尿病としての対策が必要とされます。(実際、空腹時血糖値が 126 mg/dl 以上の人に糖負荷検査を実施するとほとんどの人が糖尿病型と判定されています。)

空腹時血糖値
判 定
110 mg/dl 未満
正 常
110 ~ 140 mg/dl
糖負荷検査が必要
140 mg/dl 以上
糖尿病

2. 糖負荷検査
では、空腹時血糖値が 110 ~ 140 mg/dl の人は糖尿病ではないので安心かというと残念ながら違います。このレベルの人は、糖負荷検査を受けてみて、糖尿病かそれとも糖尿病予備群である境界型糖尿病かの診断を受けておく必要があります。そのうえで、治療の必要な状態かどうかを確認することが必要です。
糖負荷検査は、空腹時の血糖値を計った後で 75g のブドウ糖溶液を飲みます。その後 1 時間後と 2 時間後の血糖値を測定し、血糖値の上がり方と下がり方で糖尿病の有無を判定します。
糖負荷検査の判定は、下表の様になされています。正常と判定される場合は、空腹時血糖値が 110 mg/dl 未満で、1 時間後が 160 mg/dl 未満、2 時間後が 120 mg/dl 未満のすべてを満たしている場合になります。また、糖尿病と判定される場合は、空腹時血糖が 140 mg/dl 以上の場合、または、2 時間後の血糖値が 200 mg/dl 以上の場合です。そのどちらにも該当しない場合は境界型糖尿病ということになります。従って、空腹時血糖値が 100 mg/dl 前後でも負荷後の血糖値が上昇している場合 (例 :1 時間後 170 mg/dl 、2 時間後 150 mg/dl など) にも境界型糖尿病と判定されることになります。


 
負荷前 (空腹時)
1 時間後
2 時間後
正常
110 mg/dl >
160 mg/dl >
120 mg/dl >
境界型
上下のいずれにも該当しない場合 上下のいずれにも該当しない場合 上下のいずれにも該当しない場合
糖尿病型
140 mg/dl ≦
 
200 mg/dl ≦

3. 尿糖
最も簡単に糖尿病のスクリーニングを行う方法に、尿糖検査があります。通常、血糖値が 170 mg/dl 以上になると尿に糖が検出されます。先に述べた腎性糖尿の場合を除くと、尿検査で糖が陽性になった場合は、一時的にでも血糖値が 170 mg/dl 以上になった可能性があるということになり、血糖検査や、後に述べる糖負荷検査を受けてみる必要があります。
尿糖検査はスクリーニングとして行う場合は、できれば食後 2 時間後くらいの尿を調べると良いとされています。早朝空腹時の尿糖検査はスクリーニングという目的ではあまり意味がありません。何故かというと、早朝空腹時の尿は就寝後から起床時までにたまった尿ですから、その間の血糖値が 170 mg/dl を越えるということはもうすでに重傷の糖尿病にかかっている人が多いからです。

4. HbA1c(グリコヘモグロビン)
高血糖状態が続いた場合、ブドウ糖は血中の蛋白質と結合しやすくなります。血液中のヘモグロビン (血色素) とブドウ糖が結合したものをグリコヘモグロビン (糖化ヘモグロビン) といいます。赤血球の寿命は約 120 日ですので、グリコヘモグロビンを測定することによって、およそ 1 から 2 ヶ月間の血糖値の平均が分かることになります。正常値は 4.3 ~ 5.8% です。
HbA1c はどちらかというと、すでに糖尿病にかかっている人の血糖値コントロールが良いかどうかの評価に用いられることが多かったのですが、最近では空腹時血糖値と組み合わせて糖尿病のスクリーニングにも応用されるようになってきました。


おわりに

糖尿病は合併症の病気とも言えますが、早期に発見して適切な治療を行うことによって、血糖値を上手にコントロールすることができれば、合併症の進行はかなり防げることが分かってきています。
今後の検診や、人間ドックのデータを見るとき、ご自分の血糖値や尿糖がどうであるかを注意してみてください。異常値があった場合は、できるだけ速やかに精密検査を受けて糖尿病の早期発見に役立ててください。