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「水の博士」小島貞男先生

水の博士小島貞男先生市町村水道担当者連絡会 / 特別講演会「水道水の水質管理」要旨

平成 14 年 9 月 18 日、ホテル白鳥 (松江市) に於いて、市町村等水道担当者連絡会議を開催いたしました。その折に日水コン技術顧問小島貞男先生に講演をいただきました。
小島先生は昭和 14 年現筑波大学を卒業後国立公衆衛生院、東京都水道局を経て現在、(株) 日水コンの技術顧問として、国内はもとより海外にも数多くの調査・技術協力等に出向いておられ、「水博士」として親しまれていらしゃいます。またホームページ < 小島貞男の水質なんでも相談 > も開設され日夜活躍しておられます。


はじめに

水道もご存知のように、90 数パーセント普及してほとんど行き渡りました。そうしますとこれからは維持管理の時代、水道を如何にうまく維持・運営するかという問題の時代になります。それを皆さんは監督なさる立場の方でございますので、これからは維持管理に力を入れて間違いない水を作り続けてほしいと思います。今日は盛りだくさんの題目をそろえました。実際はその一部でも大変問題があるのですけれど、私もめったに皆様にお話出来る機会はないと思いますので、私の知っていること、経験したことをなるべくたくさん皆様にお伝えしたいと思います。


1. 地下水のトラブル

先ず、地下水を水源に使っていらっしゃる水道の問題点というか、起きやすいトラブル、それをどうしたらよいかというお話をいたします。地下水というのは、考えてみますと理想的な水なのです。私はかつて厚生省で、「おいしい水の研究会」というのを 2 年間やりました。全国の水を送ってもらって、どういう水がおいしいか、どういう水がまずいか、飲んでみました。それで分かったのは、例外なく皆さんがおいしいというのは地下水なんですね。体がそれを知っているんですね。本能的なものです。皆地下水を好むんです。

何故こんなにも好みが一致したかというと、地下水が自然界では一番安全だからなんです。皆さんご存知のように、その原料は雨ですが、雨が降って地表に落ちて土壌の中にしみ込んでいきますね。ここで浄化されるんですね。土の中には非常にたくさんの種類の微生物がおります。これが全部浄化してくれます。浄化され、炭酸ガスを含んで地下に入ってくると、この水は岩を溶かす、つまりミネラルを含んで地下に入ってくる。この水は美味しい、美味しいということは安全だということを体が知っている。そういう意味では最も理想的な水と言ってもいいと思いますが、全部がいつでもそう言っていいかというと、そうでもなくなってきたのですね。今では危ない地下水も出来た、気を付けなければならない地下水も出来た、そのお話を先ずいたします。

鉄バクテリア
先ず地下水を使っているところで起きやすい障害と言いますと、鉄マンガンとか鉄バクテリアを含む水がよくあるんですね。それは地下水の一つの特徴だといってもいいですね。そうしますと、いろんなトラブルが起きます。
ある街でこういうことが起きました。水道工事をして断水すると、その後で真っ赤な水が出る。火事が起きて消火栓を使うと真っ赤な水が出る。そういう町がありました。そのうちに、盆と暮れに真っ赤な水が出る、朝晩真っ赤な水が出る、年から年中真っ赤な水が出るようになってしまいました。市長さんが困って私に来てくれと言われたので、私はまいりました。私は顕微鏡を持ってまいりました。私は現地に行くと、この赤い水の原因は何かを先ず見るんです。それを分析しましたら、鉄バクテリアが赤くしているんだということが分かりました。これは何処から出たかというと、井戸に違いない。その途中に配水池があるはずだからその下に溜まっているはずだというので調べたら、水源のところで白っぽい綿くずみたいなものが 1 リットル当たり 2 、3 個必ず出てくる、これを顕微鏡でみると鉄バクテリアなんですね。これが塩素で殺され真っ赤になってたまる、これが朝晩水が勢いよく流れる時に家庭に出てくるということなんですね。

井戸からなんでこんなものが出てくるかといいますと、地下にこれが沢山増えちゃったんですね。何故増えるかというと、鉄分を含んだ水が流れると、それを酸化してそれを食べ物にするバクテリアがいるわけです。それが鉄バクテリアです。それが繁殖するわけです。
水の中にはほとんど鉄はないんですよ。だけど、鉄バクテリアが運んでくるんです。こういう時には濾過器を付けなければならない。前塩素で殺してしまって、濾過して取ってしまう。ピッグというプラスチックの大きな砲弾みたいな格好をしたものを中に入れて、ざーと押していく訳ですね。そして消火栓なり端末から出してしまう。そうすると一晩のうちに 1k から 2k 位のパイプがきれいになります。それを続けていけばいいわけですが、当時はまだなかった。だから簡単には出ないですよ、今はピッグを入れて中をバーとやると一晩で数キロきれいになります。これをやるとすぐ直りますけど、その町は消火栓の放流だけでやりましたから、流しだすのに 1 年かかりました。それぐらい後始末が大変です。

その当時これに何故気が付かないかと言いますと、原水を異物がないか見ろと書いてあるのですが、誰も見ないですね。透明なビンに入れて、日にかざして、太陽の方に向けてゆっくりゆっくり回すと、白い綿くずみたいなものが見えるんですよ。水を調べる時に、水に異物がないかということを見ていないと見つからない。兆候を早くつかんだら何も障害が出ないうちに直せるんです。それを出るまで気が付かない、或は気が付いてもそのままにしておくと、この町のようになってしまいます。

これは鉄を食べるバクテリアです。鉄を栄養にしている、いろんなのがいます。今のはこの 4 番目のです。レプトスリックスという、パイプのような形をしたので、これは中のバクテリアが出ちゃったのです。非常に早く増えます。こういう複雑な格好をしたのもあります。よく出て来るのはガリオネラというこのような紐をひねったようなのもあります。中にバクテリアの細胞が並んでいるようなものもあります。ここには出ていませんが、マンガンが好きなバクテリアもいます。それはマンガンがあると必ず出てくる。これがいると、マンガンがあるなということがすぐ分かります。

鉄バクテリアを使ってどうやって除去するかという話をします。鉄バクテリアというのは鉄とマンガンが好きなんですから、それを食べるというのは分かるわけですね。それを利用してやろうというやり方がこれなんです。
初めはそういうことを考えた人はいなかったんです。偶然に見つかったんです。そこでは緩速濾過をやっていたんです。その当時水の検査は厳しかった。自分で作る水道、民営水道は毎日水を保健所に持って行って検査しろという規則があった。その人は真面目ですから、毎日毎日その錆を削る、そしてその水を毎日持って行って検査してもらう。ところがある時旅行することになって、その親父さんが息子に頼んだ。ところがこの息子が怠け者で一回も削らない。どんどん赤錆が溜まったのをそのままにして、検査だけは衛生試験所にもっていった。すると衛生試験所の技師が、お前のところの水はだんだんきれいになる。何かいい方法を採用したのかと言うのですね。それで親父さんは、もしかしたら錆と鉄マンガンが減る、除去と関係があるのではないかと思って、これを専門家の所へ持っていった。そしたらバクテリアだった。これが浄化したのかもしれない。偶然に見つかったんです。
こちらの大田市とか安来市では早くやったんですよ。今はやっていないようですけど。こういう微生物を使う濾過と言うのは緩速濾過と同じで、詰まって来たら削らなくちゃならない。ところが赤錆という鉄バクテリアが集めてきた鉄錆というのはすごくねとねとして、ネバネバして削りにくいですよ。その後私はもしかしたら逆洗で洗浄しても大丈夫かもしれないという考えを起こして、それをやって、逆洗でも大丈夫ということを証明したんです。水道でもいくつかこれを使っている所があります。

生物
地下水でもう一つ困るのは、生物が出てくるんです。地下水の中にすんでいる生物がいるんです。塩素に強いですから 3ppm ぐらいでも死にませんから、ごそごそ動き回っているんですね。これらが出てくると、すぐには病気にはなりませんけど、やはり具合が悪いです。水道からこんなものが出てくると、信用問題になりますね。
こういう異物が出て不安を与えるようなのは、やっぱり水道水としては失格ですね、こういうものが出ないようにするには濾過をかけなければ取れない訳です。地下水は直送してもいいと言うけれども、地下水によってはこういう虫がちょいちょい出る地下水がある。こういう地下水は直送してはいけない。

ハイテク汚染
地下水はこれからちょっと心配なことがあります。ひとつはハイテク汚染というのが地下水でも起きるようになったことです。洗浄剤、すなわち洗うお薬ですね。何を洗うかと言うと、半導体のチップ、精密機械、つまり油が少しでもつくのを恐れる、取らなければならないような物を最後の仕上げに使うのが洗浄剤ですね、トリクロロエチレン・テトラクロロエチレンとか皆さんよくご存知のものです。洗浄剤をあまり規制しない時代があったのです、そこら辺に捨ててもいいような時代があったんですよ。それが地下に入っちゃったということもありますし、今でも漏れているのもあるかもしれないのです。普通なら地下に行くまでにみな浄化されるのですけど、こういう人間が作った、人工合成有機物というのはまだ微生物で分解できないんです。そのままずーっと地下水まで行ってしまうのです。ですからこれがいつまでも分解されないであるのですね。自然の物質、天然の物質なら地下にいくまでになくなっちゃう。間違っていっても地下でなくなっちゃう。ところがこの人工物質だけはいつまでもなくならない。これが困る。

ですから、地下水といっても全く安心という訳にもいかないんです。近くに工場があった時には気をつけた方がよい。かつてはクリーニングでもこれを使ったんですよ。クリーニング屋さんがあったらその近くの地下水も気をつけた方がよい。
地下水が豊富で日本でも有数な地下水地帯の熊本市でもこの問題が起きたのですね。私は頼まれて熊本にまいりましたけど、あそこには水がきれいということで、半導体の工場が沢山あります。それを洗うのに使った廃液が地下に浸透しちゃったんですね。ハイテク汚染といっていますけど、地下水がハイテクで使う洗浄剤の汚染であそこも非常に心配しています。

硝酸性窒素
それからもう一つは硝酸ですね。硝酸性窒素がだんだん増えてきちゃった。昔は硝酸性窒素は少なかったですよ。というのは日本は肥料が買えなかったから。みんな自分達で出した糞尿を使ってました。人糞を使うぐらいしか肥料がなかった。たいした量は撒けませんから、皆作物が吸い取る、土壌で止まる、地下まで行かないわけです。ところが今はふんだんに撒きますから。特にお茶畑などは沢山撒くのですよ。必要量の何倍か撒くのです。沢山撒いた方が葉の色がいいらしくて、高原野菜とか果樹園とかも窒素肥料をたくさん撒く。そういうとこは大丈夫かといつも気を付けた方がいいですね。
中にはこういうのもあるんですよ。浄化槽の廃液が汚いからといって地下に浸透させた所があるんです。そしたらその町の水道水源の井戸が窒素過多になって使えなくなった。それから東京の三鷹という大きな町なんですけど、地下水を使っていますけど、ここで 10ppm を超えたことがあるんですよ。それで相談がありました。その時に私は、今窒素が少ないのは深井戸と表流水なんです。だから深井戸を混ぜなさい。混ぜて供給するのが一番手っ取り早い。そうすると、いやあ、毒は薄めても毒だという人がいる。そういう人には、毒は集めたら薬になるといってやりなさいと私は言いましたけどね。
ともかく基準を満たせばいい、安全を見てますから基準以下にすればいいんです。脱窒素をやるなんて簡単に出来ないですよ。非常に沢山の努力とお金をかけて、しかも水をまずくするんです。地下水だったら薄めるのが一番です。他の成分でもそういうものがある。薄くしたら大丈夫です。天然物質は怖くない。簡単に処理なんかおやりなさんな、処理をやるということは廃棄物が出るということてす。それをどうするかまで考えなくちゃならない。フッ素でもそうですね。フッ素を取ることはできるけれど、取ったフッ素をどうするか、誰も答えられない。その次が問題なんです。だから簡単に取っちゃいけない。薄めて基準に合格できる方法があったらそれが一番利口な方法ですね。
ただし、私は人工物質は保証できないですね。人工物質は将来どういうふうに変わるか分からない。まだ経験がないですから。こういうものが一番怖いですね。

油汚染
もう一つ、油汚染があります。地下水の中にガソリンスタンドのガソリンがもれたとか、或は航空ガソリンのタンクにひびが入っていて地下水に漏れたとか。
立川市で大きな事故がありました。非常に大量に出ましてね、井戸の水に火をつけると燃えたって言うぐらい沢山出ちゃったことがあるんですよ。そういうのは例外ですけど、ガソリンスタンドあたりから入って、それで地下水が臭くなるというのは時々あります。
これも地下水の中で起きるトラブルです。これは汚染源を明らかにするしかありません。


2. 河川水のトラブル

次は表面の水、表流水を浄化する浄水場で起こる問題をお話します。
皆さんもご存知のように、表流水ですと急速濾過か緩速濾過のどちらかを使うわけです。

緩速濾過と言うのは、沈殿池で一昼夜、昔は 1 日おいたんですよ。だから、荒いものは皆落ちる、大きいものは落ちる。薬は入れないけれど時間を長く取ったんです。今はだんだんこういう広い面積が取れなくなって、10 時間ぐらいになりましたけど、昔は 24 時間ここに貯めました。それで上澄みを取って次に降ろす。この緩速濾過機というのは何にも仕掛けがないです、ただ砂を通って次は砂利があって下に玉石があって、ここをずーっとゆっくり通すだけのことです。どれぐらいゆっくりかというと、1 日かかって濾過した水を貯めたら 5m の深さの水になるというぐらいです。或はこの 5m 分、普通 4m ありますけど、5m 分の水がここの中を通ってゆっくり出てくる。そのくらいのスピードです。今は消毒していますが、昔は消毒がいらなかった。この方法でやるとばい菌が全部取れる。微生物の力で浄化する。上に微生物の膜が出来る。この膜だけで浄化するのではないですよ。もっと中まで 30cm から 40cm ぐらいの厚さの層が浄化する。表面に膜が出来ますけど、膜はいろんな異物を引っ掛けますけども、溶けている物はここで取れる訳がない。
中へ入ってから溶けている物は取れる。つまりアンモニアがくれば硝酸に変える。亜硝酸を通って硝酸になる。有機物がくれば、分解して炭酸ガスと水にしてしまう。いろいろな成分を、分解できるものは大体皆ここで分解してしまう。吸着で取るものもあります。

それに対して今は急速濾過、戦後この方法が大いにはやったのです。急速濾過というのは薬の力で浄化する。硫酸バンドとかパックという凝集剤を入れて引っ掻き回す。急速撹拌といってミキサーでばあーと撹拌する、それからその後で、小さなフロックが出来ます。それを育てて大きくしなければいけない、だからここで揉む訳です。中に水車が入っています。水車で始めは早く、中位に、それからゆっくりゆっくり回す、そうするとだんだん大きくなって綿くずみたいになります。大きくなったところで沈殿池に入れるとばあーっと下へ落ちます。それで上澄みを持ってきて濾過する。急速濾過ですから早い速度で濾過する。どれぐらい早いかというと、一日に 150m の水がばあーっと通過する。緩速濾過は 5m ですから、30 倍も早い。どうしてそんなに早くていいかというと、一つは大部分の異物をここで先ず落としてくれる。

少々細かいものが出ても、必ず消毒して殺してしまう。この薬とこの薬で浄化するわけです。急速濾過なのに、うちの原水はきれいだからこのバンドをやめてお金を節約しようなんていう所がありますが、これを止めたらダメなんです。こういうことをやると、クリプトの卵が出ちゃうのです。バンドが入っているからここで引っかかる。これがなかったら素通りと同じです。つまりどんなきれいな水でも必ず入れなくちゃいけない。急速やるからには絶対欠かすことが出来ない。これが一つ大事なことです。それから必ず引っ掻き回さなければならない。つまり、水と薬というのは混ざらないです。必ずこういう撹拌機がないと混ざらない。薬と別々に行っちゃう。だからマンガンが出てるなんていうのは、これが不十分なんです。これをよく混ぜてやる。

そうすると両方ともきれいになってバクテリアを殺す、緩速濾過は何も消毒しなくてもバクテリアがいないきれいな水が出て来ます。それですけど調べてみると、始めは同じだと思っていたんです。急速濾過を作る所はみな緩速濾過と同じぐらい濾過する力があると思って作ったんです。それぐらい期待してたんです。これはさぞかし何でも出来るだろうと思ったら、違うんですよ、緩速濾過は、濁度は取れる、色度も取れる、細菌も取れる、急速濾過は塩素で殺しますが緩速濾過は濾過で取れます。要するにここまではいいんです。アンモニアになったらこっち (緩速) は完全に取れるのに、こっち (急速) は全く取れない。臭いが来たらこっち (緩速) は完全に取れるのに、こっち (急速) はまったく取れない。鉄は取れますが、マンガンが来たら緩速は完全に取れますが、これは全く取れない。洗剤も LAS になると緩速はほとんど取れますが、急速は全く取れません。プランクトンもこっちは完全に取れるけど、こっちは漏れます。生物は取れる。こういう力の違いがあります。

ある町でこういうことが起きました。町の半分でこっちはおいしい水、こっちは臭い水が出るようになった。同じ水源ですよ。先ず水がまずくなってだめになるのが豆腐屋さん。こっちの豆腐屋さんが売れなくなっちゃった。あれは水で決まるんですよ、豆腐の味は。こっちの豆腐屋さんにみんな買いに来るようになった。それから料理屋さん。特に会席料理は水で決まる。こっちの料理屋さんは流行るのに、こっちには誰も来なくなった。それから喫茶店。あの頃はまだ浄水器がないから水道の水そのままでコーヒーを入れたんですね。臭い水のコーヒーなんて飲めないと言ってみんなこっちの方に来るようになった。そのうち誰かがこれはおかしいぞ、同じ水源で来ているのに我々の方だけ臭い、隣の町はとてもおいしい水が出る。これはもしかしたらこっちの配水池に死体が入っているのではないかと誰かが言ったんですね。噂が町中に、ばあーっと広がった。私は来て見てすぐに分かりました。

市長さん、こっちのおいしい水は昔の緩速濾過から来ていますよ、こっちはまるで文化会館みたいな最近作ったきれいな浄水場からきている水で、このまずい水ですよ、と言ったら、ああそんなに違うんですか、私は緩速濾過と言うのは昔の旧式な方法だと思っていた、こんなにも力があるとは知らなかった、この次作るときは旧式を作りたいと、こう言われた。それぐらい違うんですよ、力は。急速を作る時そんなこと考えて作った人は誰もいないですよ。急速は緩速と同じ力を持っていてしかも狭い所で出来るのだと思っている。新しい方法には必ず反対のことがあるのです。いいこともあるけど、悪いこともある。そういうことのいい例だと思います。

川の困ったことは汚染を受けることです。川の流域からいろんなものが入るんですよ。工場の排水なんかが入ることがある。東京近隣の三つの県でもお正月の初めに臭い水が出たことがあります。ちょうどゴム管を焦がしときの臭い、とにかく経験のない嫌な臭いがしたんですね。三つの県が使っている水源は利根川です。利根川の汚染だということはわかったんですが、川の汚染というのは一時ですら、流れたらわからなくなっちゃうんですよ。それで調べようと思っても川に臭いがないわけです。ちょうどその時私の所に非常に微量でも我々にわからない臭いでもわかる人がいた。その人が臭いをかぎながらだんだん上へ上っていったら、臭いがだんだん濃くなるんですね。臭いをかいでいったら支流が見つかった。この工場だというのを見つけた。どこから出ているか、物質は何か、これがわからないと次の警戒が出来ないわけですね。何を気をつけたらいいか、汚染源の対策は何をしたらいいのか。どこから出たのか分からなくてはいけない。
その人は鼻が非常に鋭敏なんですよ。この水はどこの浄水場の水か、川も分かるんです。これは利根川だ、多摩川だ、相模川だというのが臭いで分かっちゃう。そのころ私は多摩川浄水場の責任者をやっていました。そのときに皆にまずいまずいと言われたのです。それで、この人が臭い係りになって、臭いを嗅いでみて、飲んでみる。大丈夫と言ったらそれでよい。彼が少しこれに臭いますと言ったら、活性炭を増やすとか他のいい系統の水を混ぜるとか、対策をとりました。それから全く苦情が来なくなった。

そういう人がたまにいるんですよ。20 人に 1 人はそういう人がいるんですね。臭い臭いと電話をかけてくる家は大体決まっているんです。その家には鼻の強い人がいるんですよ。20 人に 1 人ぐらいの割合で市民の中にもいるに違いない、だからそういう人が先ず気が付くんですね。それで苦情が来るんです。地表水ではそういう心配がありますが、その他はたいした心配はありません。


3. 湖のトラブル

ダムになると話が違います。川の水をためても全く変わった水になるんですよ、大体春先から秋口までは、水が分かれてしまいます。これを成層といいます。上のほうは真っ青です。これはプランクトンつまり藻類がいっぱいいる。これは「ソウルイ」と言います。よく「モルイ」と言う人がいますが、「モ」と言うのは金魚藻みたいな水草のことをいう。「ソウルイ」というのは単細胞植物で、顕微鏡で見なければ見えない。中層は少し落ちてきている、下の方はいない、真っ暗ですね。プランクトンがいっぱいいると臭気を出す。酸素は過飽和になる。下の方はゼロ。無酸素になります。無酸素になると今度は鉄マンガンが下の方から溶け出します。アンモニアも下から出てきます。もっとひどくなると硫化水素が出てきます。下のほうの水、上の方の水、真ん中の水とおよそ三つに分かれます。下のほうは冷たい、上の方はあったかい。中層は中ぐらいの温度です。

ある町で夏暑いから冷たい水を出してやろうと言うので、下の方の水を出した所があるんですよ。どうなったかと言いますと、確かに冷たい水が出たんですが町中真っ赤な水が出ちゃった、まず困ったのはクリーニング屋さん。それから豆腐屋さん。それから写真屋さんも年中流して水洗いをしていますから、カラー写真が皆赤くなっちゃった。その中に結婚写真があった。これは取り直しができないんだと言って怒って水道にやって来た。もっと大きな損害は製氷会社、氷が皆真っ赤になった。これは補償問題になりました。そういう事件がありました。ところが、赤い水が出ると水道は、あれは鉄管の錆ですからそのうちなくなります、というんです。その町は鉄管使ってなかったですよ。私は一目見てわかった。これはマンガン。お宅ダムの下を開けたろうと言ったら、下は冷たくていいだろうと思って下を開けたと言う。(下のほうは) ダメだ、もっと上を出しなさい。それで前塩素をやって除マンガンをやりなさいといったら、それをやって何とか収まった。

ところが翌年、製氷会社が今度は青い氷が出来た、去年は赤い氷で今年は青い氷だ、なんちゅうことだと怒って来た。顕微鏡で見たら藻類がいっぱい。上から出したんじゃないか早く下げなさいと言いました。ダムを作ると下もダメ、上もダメなんです。中層にいい水がある。それから秋になると循環期になると循環が始まります。

それからダムの問題で変わった問題もあります。それは、クサカというかなり大きな虫です。この虫が塩素に強くて死なないんですよ。体がぐにゃぐにゃ柔らかいです。この上の方に、空気袋があるんです。空気袋に空気を入れて、酸素のない所に身を潜めているんです。魚のいい餌なんですけど、魚に食べられない。そして夜になるとずーっと上の方に出てきて、プランクトンが餌ですから、藻類を食べに来る。そして空気袋の空気を入れ替える。明るくなる前にまた底の方に入る。こういう生活をしてんですよ。それが浄水場にやってきても全部は取れないです。少し残るんです。これを退治するうまい方法があるんですよ。一番下の無酸素の水をエアレーションして上げる。底の水を上げて表面に持って来る。酸素が全部行き渡る。そしたら魚が行って食べちゃいます。
すぐにはいなくならないですが 2 ヶ月かかったら全く来なくなりました。みんな魚が食べちゃった。魚はお腹一杯になって餌やっても釣れなくなっちゃった。そういうこともありますので、水源にダムが出来た、或は上の方にダムが出来た時は気をつけなければいけない。


4. 最近の問題

次は最近のいくつかの話題をお話します。

クリプトスポリジウム
一つは、クリプトスポリジウム。実は私はクリプトの経験者で、エチオピアに行った時にこれに罹ったことがあります。ものすごい下痢なんです。ほんとに立ち上がれなくなるほど。1 週間ぐらい。食べ物はもちろん入りません。私は大体抗生物質と下痢止めはいつも持ってますから、それ飲んでも効かないですよ。仕方がないから寝てたんです。寝てて 10 日ぐらいで立ち上がって動けるようになって働けるようになったんです。薬が効かない下痢とはナンなんだろう。抗生物質が効かない、下痢止めも効かない、しかし寝てたら自然に治っちゃう、しかも 2 度目には罹らない、免疫が出来て罹らない、これがクリプトの特徴なんです。これは皆さんもよくご存知のように、糞便の中に 1 人が 1 億個ぐらい出すというのです、一日に。これがものすごい速さで増えていく。
それがある時間たちますと、オーシストという接合子となる。ただシストというときは単為生殖で、雄雌が合体したものはオーシストといいます接合子です。接合子は非常に強い殻を持っていて、乾燥にも耐える、塩素をやっても死なないという非常に丈夫なものが出来るわけです。

日本では 1 箇所、これが流行したところがあるんですよ。普通はこれはそう簡単に水道から出ません。よほどの間違いがあったに違いないと私は思う。そっちの方が大事なんです。どういう間違いがあったのか。先ず下水を上流側に入れているんです。そんな計画はないですよ。誠にまずいやり方ですね。これが先ず一つ。

それから伏流水というのが曲者です。伏流水というのは始めは何処でもいいんですよ。あれは処理しなくてもいいくらいきれいなんです。問題は 20 年後なんです。20 年経つと水が出なくなるんですよ。そのときが問題。苦し紛れに穴を掘るんですよ。穴を掘って表流水を呼び込んじゃう。伏流水を取っている埋管のところに導いたらすぐに水はいっぱい来ます。ただし表流水ですから、伏流水でないことを頭に置かなきゃいけない。その時に表流水を処理できる設備がなかったら、もうバンザイですからね。そこに急速濾過があってもバンドを入れなきゃ、バンドを入れなかったらこれは素通りと同じですよ。急速濾過でバンドを入れなかったら、ただの筒抜け、粗漉しですよ。砂の粗漉しなんて何にも取れやしません。そういう間違いをやったんじゃないかと私は思うんですね。こういうことをやったら、浄化というのは成り立たないですよ。ただ怖い怖いと言っちゃいけない、なぜ出たかということを調べなければいけないです。急速が怖いのではないんですよ、どういう管理をしたかが問題です。管理が怖いんです。

環境ホルモン・生物濃縮
それから最近怖いのは人間が作った合成物質だと申しましたけど、やはり怖いのは生物濃縮と環境ホルモンの問題ですね。
生物濃縮というのは、釈迦に説法かもしれませんけど、水の中にあるときは非常に薄いですね。どんなに薄くても合成物質が怖いのは生物濃縮を起こすことです。生物が入るたびに濃くなる。例えば、一番最初は藻類ですね。水の中に出たときには計れないぐらい薄いのに、藻類の体の中ではちゃんと検出できるぐらいの濃度になっている。それを食べるミジンコとかワムシの類に行くとその 10 倍位濃くなる。それを食べる魚になるとまたその 100 倍から 1000 倍濃くなる。生物が集めているんです。生物は食べたやつを濃縮するという性能を持っている。今度は魚を食べる。最後は人間と鳥ですから、そこへ集まる。これが分かったのは DDT で分かったのです。

DDT というのはノーベル賞をもらった位いい薬です。あれぐらい人類に貢献したものはないと言われる位だった。あれは今は製造禁止になっています。生物濃縮が起こると分かったからなんです。PCB も同じですね。あれもいい薬だったんですよ。ああいう絶縁体として使うには誠によかった。これも禁止になりましたね。水銀もそうですよ。メチル水銀あれも生物濃縮です。それで水俣湾の魚の中に入っちゃった。それを食べた人がなっちゃった。生物体が生物体の中でどんどん集めながら、その次の代になると 100 倍、その 1000 倍とまた集める。水の中の濃度の何十万倍から何百万倍になるんですよ。
そういう意味では水が一番安全なんです。一番薄いところが水なんです。食べ物の中にみんな集まっている訳ですね、ダイオキシン類がそうですね。ダイオキシン類が最初見つかったのは、瀬戸内海の製紙工場の排水ですね。製紙工場の排水はずーっと瀬戸内海に入っていったんだから瀬戸内海の海の中にあるはずだと調べたけど検出できない。ところがボラを調べたらちゃんとある。排水と同じぐらいの濃度がある。我々の危険に早く達するのは生物濃縮なんです。非常に怖いです。これは食べ物の話ですから、水道と直接関係はありませんけど、危険を考えるのはそういって考える方がいい。


5. 最後に

それから最後に時間が来ましたけれども、新しいホットニュースを一つご紹介いたします。今まで誰も出来なかった浅い湖のアオコをどうやって退治するか、今までこれ方法がなかったのですよ。お堀を先ほど見せていただきましたけど、お堀も昔はこのように青かったんではないかなとおもいましたけど。藍藻類が沢山繁殖して、こういうのをブルームと言いますが、こういう風になった状態をアオコと称しています。昔は水の花と言いました。これを退治が出来ない。これは公団の池なんですが、10 年間いろんなことをやったんです。網を掛けてみたり、ホテイアオイを植えてみたり、水草を植えたり、いろんなことをやったけども、退治できない。

私は 10 年ぐらい前から考えていた方法があるので、私にやらしてください、貸してくださいといってこの池を借りて、こういう物を浮かべたのです。まあ、光が通らない板ですね。これは四角い小さなやつですけど、バラバラにならないように枠で囲ってある、それを真っ青な池の上に乗せた、そしたらきれいに底が見えるようになった。何もしない方の水を取ってみると、表面の水はこんな真っ青です。ビンの中に入れて見るとですね。50cm 下もこんな真っ青です。顕微鏡で見るとこれはみなアオコです。ミクロキスティスという藍藻類です。板を浮かべたほうは全然いないわけではなく、珪藻類が少しおります。こういう具合に水が全然変わってしまうということです。

もっと大きいところでやってみました。2 万 2 千 m2の実際に使われている貯水池です。今まで真っ青で水道が非常に困っていたのですが、どうしていたかと言うと、硫酸銅を入れたり、エアレーションをやっていたのですが、浅いとなかなか効かないです。pH が 10 にも上がるから、これを処理するのが非常に難しい。pH が 10 にも上がるとパックを 120ppm ぐらい入れる。非常に沢山入れるものだからフロックが全部沈まないで、キャリーオーバーして急速濾過機が詰まる。それを無理に洗浄しながら濾過していると、今度はスラッジがいっぱいできる。脱水がうまく行かない、悪いことだらけなんですね。薬品は使うし、しかも後の処理が非常に難しい。それで私がこれをやったら薬は半分以下、硫酸銅はゼロ、それから凝集剤も半分、120 ぐらい入れてたのが 50 ぐらいで足りるようになった。それで pH も上がらなくなった。これは当たり前の話で、藻類がいなくなれば上がらないですから。そういう湖になって非常に楽になった。

これがいろんな所に将来使えるのではないかと私は思うんです。実は、中国の湖がみんな真っ青になっちゃったんですね。これをどうしたらいいかという会議が中国で開かれました。10 ヶ国の学者が呼ばれて、私も呼ばれましたので行きました。私以外の人はみんな窒素と燐を取れと提案しました。私は窒素と燐をとってもダメです。間に合いません。すぐ困る問題だったら私が考えている方法をやったらいいと言って、この方法を提案しました。理屈は窒素と燐を取ったらいなくなるんですが、ところが成功した所がない。その時の会議でも何年かかったかという議論の時は、30 年とか 40 年とか言うんですね。30 年、40 年直らないと言うことは出来ませんという事とほとんど同じなんですよ。水道がそんなに待っていられるはずがない。すぐに直らなきゃ困るんです、それくらい困っている問題なんですね。
私の方法でやったらもう今年直ります。やった年から直ります。深かったら水の循環をしなさい、浅かったら遮光をやりなさい。それできれいになります。その話をいたしましたら、オーストラリアの大学の先生が、オーストラリアではこの方法で藻類のコントロール以外に蒸発防止が出来ると。オーストラリアは蒸発で困っていると。貯めた水の半分が蒸発しちゃう。もし蒸発が止められたら利用出来る水が 2 倍になると。これは蒸発防止とアオコ退治の両方兼ねたらいいと、そういうサゼッションしてくれました。オーストラリアに最も適した技術だと言っておりました。

蒸発では日本は困りませんので、蒸発は考えなかった。何したらいいかと言うと、この上にソーラーパネルを並べたら、発電が出来るだろう。どうせ広い面積があていますから、ソーラーパネルを並べて発電とアオコ退治を一緒にやればそれだけ金をかけられるじゃないかという、そういう提案をその時しました。
いずれにしてもこれからの問題ですが、浅い所でもアオコをコントロールできる方法が見つかったと言うニュース、最近のお話です。

お話したいことは沢山ございましたけど、およそテキストに書いた部分はお話いたしました。環境ホルモンのことがありますが、環境ホルモンはもっと微量でも影響を受けますので、これが一番心配だなあーと思っています。ただ、これも飲み水を気をつけていたらいいという問題じゃないんです。これは食べ物も気をつけなければならないから、これは簡単ではないです。飲み水は一番心配ないところです。一番心配なのは食べ物です。これをどうするかということはこれからの大きな問題だと思います。

出典 :(財) 島根県環境保健公社主催『水道担当者連絡会議』特別講演